世界の終りで愛を歌う

 それは、その日の夕暮れ時に訪れた。

食後の運動に実の家の前にある公園に散歩にやって来た二人。


その姿はまるで恋人同士に見えた。

実は全く気にせず、自然の中に溶け込み、

爽やかな涼しい風を感じて楽しんでいた。

詠美の事は余り眼中にないらしい。


「ねえ。実君の好きなタイプはどんなタイプですか? やっぱり紗理奈ちゃんみたいに趣味が合う人ですか?」


と詠美が実に質問した。


「好みのタイプか。とりあえず、自分を好きになってくれた人が好みのタイプかな?」


と普通に返す実。その表情は実に自然だ。

緊張感の欠片もない。

「そうなんですか。じゃあ、今好きな人はいますか?」


「別にいないな……誰が良い人いないかな」

と言う実。そのユニアンスも実に普通。


「実君ならきっと良い人が現れますよ」


と励ます詠美。どうやら彼女は友人の紗理奈の恋を応援しに来たらしい。


彼女に好きな人はいるのかと聞いて来てと言われたに違いない。


紗理奈は、ゲームと漫画、それにアニメや、ファンタジー小説が好きな女の子だ。


確かに趣味なら実と合いそうだ。

そして目的を果たして、

実の家に戻ろうと詠美が言って、

帰りたいんだなと実は思い、

詠美を彼女の通う大学の寮に送った。


「じゃあ、あり得ない小説の続きを楽しみにしてますから!」


実の血筋では、北大医学部は決してあり得ない事ではないのだが。


詠美の言葉に実は少し傷ついたが、

すぐに忘れた。悪気はないよな。

彼女はとても素直で良い女性だから。

実の車はゆっくりと安全運転で帰路についた。


途中で詠美と古本屋に立ち寄り、

題名の無い黒い本を買って……。


詠美はその本とお揃いの白い本を買った。


これが運命の別れ道だとも知らずに……。
< 38 / 61 >

この作品をシェア

pagetop