世界の終りで愛を歌う
「じゃあ、しっかり本を読んで下さいね。実君。紗理奈ちゃんには今度白い本を貸すから」
と言う詠美が教会から出て来た。
これで、実は黒い本を読む筈だ。
「それはどうかな。読まないかもよ。と言うか一生。
あの本は誰にも渡さず、
手元に置いておくのが一番に思えるんだ」
フフフ。流石は神の剣と盾の一人だ。
一筋縄ではいかないらしい。
だからこそ、悪に身を落とした時が楽しみだ。
もっと素晴らしい人格を持て。
そして立派になり、富を得て、
多くの人を助け、飢えた人を救い、
そして、それから堕落して私の元に来るのだ。
そうする事は容易だ。
貴様の一番愛する者を奪えばよいのだから。
「黒い本を読まないんですか? 5万でしょ? 勿体無い」
紗理奈が聞いた。
「じゃあ私も読まないで、ただ持ってようかな」
「いや、詠美ちゃんは読んでいいよ! 是非読むべきだ」
詠美の言葉を実が打ち消す。
実は神から出ている物を見分ける才能に優れているらしい。
「実君がそう言うなら……」
黒い本が実では無く、
詠美の手に渡っていれば――と私は思わずにはいられなかった。
素晴らしい彼女も魔女になれる素質がある。
彼女も良い人間であるからだ。