世界の終りで愛を歌う
虚像の物語
私は、第5ラウンドは無かったと思っていたが、
知らずに敗北していた。
相手は妻ではなく、外科医の小田切。
私のプライドと心は彼にズタズタに切り裂かれていた。
小田さんは大変だ。小田切と出会ったら。
切られてしまうのだから。
「何を考え込んでるのよ? さあ行くわよ。久々のデートにね!」
「はあ? デートって私達は結婚してるが?」
「結婚してても、デートはするわよ。用意をして行くわよ! 予約の時間が近いわ。まさか忘れてたとか?」
そう私は妻の浮気を知り、
絶望を味わいしばし妄想の世界に捕われていたのだ。
現実をおろそかにして、逃避活動に没頭していた。
逃げていても、何も解決はしないと言うのに。
「髪をセットしなさいよ。小田切みたいに! もう……いいわ! 私がやってあげる! 不器用なんだから……」
彼女は手早く私の髪をセットする。
小田切と全く同じ髪型に……。
小田切の髪をセットしなれていると言う訳か……。
悲しいのに私は涙が出なかった。
変な気分だ。いや、もしかしたら、
既に私の心はこの時には死んでいたのかも知れなかった。