世界の終りで愛を歌う
美形の奴は頭が悪いし、出世もしない。と言うが、それは誤解だ。
世の中には顔も良くて頭も良い人間がいる。
この男のように、また憎き小田切のように。
しかも同じ名字の俳優とそっくりだ。物真似とか出来そうである。
私は完璧に彼に負けたのだ。やれやれ……このままでは美形嫌いになってしまう。
面接に来た美形は全て叩き落としてやろうかと思う。
私は父が所有する札幌の病院の委員長に任命されたのだから。
所詮は親の七光り。実際は妻より収入が低い無力な男だ。
「そんな悔しそうな顔をしないで……燃料さえあれば……今度は負けないぜ!」
負けないぜ? 先程から妻の言葉使いが妙だ。
普段もそんなに言葉の使い方が良いとは言えないが、
明らかに口が悪い。顔つきも変わっていた。
そして負けた今はリベンジの炎に燃えた瞳で赤い車のドライバーを睨んでいた。
私なら震え上がるところだが、男は微笑を向けてゆっくりと、そして優雅に歩いて来た。
車にはねられてしまえ!
と私の呪いの言葉は効果がなく、男は運転席のガラスをコンコンと優しく叩いた。白い肌に微笑を浮かべながら。