世界の終りで愛を歌う
「何の用よ。急いでるんだけど」
妻は窓を開けて不機嫌な声で言った。
「では大変ですね。燃料を分けてあげますよ」
とこちらの燃料ゲージを見つめてそう言った。
「結構よ! ガソリンスタンドまで歩くわ。インターも目視出来る所にあるし。行って来るから待っててね。あなた!」
「待てよ。僕も一緒に行こう。デートなのだから」
「駄目よ。この車は5000万もしたのよ。留守番を頼みます」
「5000万ってどんだけ! 僕は知らないぞ!」
「ごめん。お互いの収入の使い方は個人の自由と言ってたから……」
「いや、いいんだけど少し驚いてさ。じゃあ待ってると言いたいが、喜美枝が待ってて。僕が行くよ」
と夫婦でやり取りをして、私が車から降りた。
「という訳だから貴方帰って。邪魔よ。そして貴方の車はとても目障り」
全国のF1好きを敵に回す妻の問題発言に正直びびった。
ちなみに、私は赤の車のメーカが好きなのは永遠に秘密にしよう。
妻に知れれば、仁義無き離婚戦争が勃発してしまいそうだから。