アルバイト執事にご用心
アベルにはゼイルに内緒で働いているということはまだ言えなかった。

クレアはもう少しだけ事情を話すのを待ってほしいと頼むしかなかったが、アベルは待ち時間は1か月だとクレアに告げた。

立場上、生徒の秘密だからですませるわけにはいかない。


クレアもそのことは理解して、頭の中を整理してから話をするとアベルに約束した。

そして車を降りようとしたとき、クレアはアベルに腕をひかれて頬にキスされた。


「ごめん、学生に手を出すものじゃないってわかってるんだ。
でも、店での君を見ていると僕も常連さんたちと同じ気持ちになる。

どうして、ゼイルといっしょに住んでいるのか知りたい。」


「それは・・・あの、また明日にでもお話します。
さよなら。」


「ああ、お疲れ様。」



アベルは大きくため息をついた。

「言ってることがメチャクチャだな。
高校生じゃないんだから・・・けど、今まで学生だの職員だのちやほやされてきて何とも思わなかったのに、バイト中の彼女をいつのまにか、目で追うようになって・・・。
ゼイルが保護者っていうのが引っ掛かるようになった。

どういう関係なんだ!
はっ・・・そっか、駅前の喫茶店できけばいいんだ。
ロイの店で尋ねてみるのはかまわないんじゃないか?」




一方、クレアが部屋にもどると、部屋の前にゼイルが怒った顔をして立っていた。


「やけに遅かったんだな。使用人にきいても学校斡旋のアルバイトとしか教えてくれないしな。」


「そうよ、学校が受けてるアルバイトを選んでやってるんだもの。」


「違うな。本当は何をしてる?
男性用のコロンの香りをさせて帰宅しなきゃいけない仕事なのか?」


「えっ?」


「最近、同じにおいがする気がするが・・・今日は一段と強いにおいがするようだな。」


「それは・・・。」


「アベル・マルラン。店ではかなり、君の動向が気になるようだったな。」


「はっ・・・ゼイル、まさか・・・お店に来てたの?」


「毎夜、遅くにもどってくる娘のことくらい保護者をすれば調べて当然だろ?
リックは兄貴とけっこう古い付き合いになるし、俺もコーヒーのいれかたと仕入れ先についてはかなり協力したからよく知っている。

だが、弟を君に斡旋しろとは言ってないんだがな。」


「何か嫌がらせするつもり?」


「いいや。それじゃ完全に俺が悪役になるだろう?
君が誰を好きになろうとかまわないが、よそで経理を教わるとかそっち方面の仕事をすることになったっていうのは黙って見ていられない。

そんなことする暇があるんだったら、うちの社長室でバイトしろ。」
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