アルバイト執事にご用心
夕方5時頃からカウンター席はにぎやかになる。

そのうちほとんどはクレアと話をしたがる客が多くなっていた。



「ほい、残ったカツサンドだ。どうぞ。」


「えっ、私に?」


「残りものを客に出すわけにはいかないだろう?」


「あっ、すみません。」


ぶっきらぼうにセイが紙袋からカツサンドを取り出してクレアに渡した。



「おいしい!あ、ごめんなさい。
時間がなかったから、すぐに食べました。」


「カウンターの客なんて待たせておけばいい。」


「そんなこと言ったって、人生のお悩み事とかを私にきいてほしい人とかいるんだもの。
家で悩みを相談できないって悲しいと思うし、私なんかでよかったら。ねっ。」



「君は悩み事をきいてくれる家族はいないのかい?」


「今はいないです。
父が生きていたときは、父にも相談したり、執事だった人にもいろいろと相談にのってもらったこともあるけど、今は誰もいないんです。

あ、急いでいるのに私ったら。
はぁ、おいしかった。こんなにおいしいんだったら、みんな買いますよね。
私もほしいけど、一度食べた人はリピーターになると思うから明日はないだろうなぁ。」


「クレアの分を取り置きしておいてやるよ。」


「ほんと?やったぁ。
私これから夜まで仕事してから帰りますから、お疲れさま~♪
セイは会社員さんなんでしょ。
これから仕事?」


「うん。ここからは出て仕事に行くよ。
君も体を壊さないように、早めに仕事をきりあげて休めよ。」



「はい。ありがとうございます。いってらっしゃい。」



クレアは仕事が終わると、リックにセイのことを尋ねてみた。


「すごくサンドウィッチがおいしくてびっくりしました。
サラリーマンしてるのが惜しい位ですよね。」


「彼は調理師の免許も持ってるからね。
ある部分、僕なんかよりおいしいものを出してしまうんだよ。あははは。」


「へぇ、どうして自分のお店を持ちたいと思わないのかしら。」


「どうしてだろうね。」


「雇い主も知らないことってあるのね。」



そして、翌日もセイのサンドウィッチは完売だったが、クレアは店内で食べることができた。


「なんか悪いわ。
人気のメニューを取り置きしてもらうなんて。」


「約束だからいいんだ。
君だって店で食べる暇もないほど、今日は忙しかったんだから。」


「ありがとう・・・。」


それからというもの、セイは週末ごとにリックの店のカウンター席に現れるようになった。






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