アルバイト執事にご用心
週末、セイがやってくると、クレアはセイの手作りのお菓子の味見をするのが楽しみになっていた。


「こんなにおいしいお菓子が作れるのにどうして、サラリーマンなんてやってるの?」


「プロとしてやっていくには時間がなさすぎるし、俺も食っていかなくてはいけないからね。」


「なんかもったいない。」


「そうでもないよ。ここでクレアがおいしいと言って食べてくれれば、俺だってとてもうれしい気分になる。
ところでさ・・・明日は休みなんだろう?

いっしょに出かけてみないか?」


「それってデートの約束なの?
残念だけど、私はそういうのはしないの。」


「どうして?ここの弟とどこかへ行く約束でもしてるのかい?」



「そんな約束なんてないわ。アベルは私の通ってる大学の先生だもの。」


「先生と付き合ったっていいんだろ?」


「そりゃ、そういうのが好きな人はいいんでしょうけど・・・私は嫌なの。
それにメアリー・ルアド・マリラン夫人の家でお世話になってるから、挨拶を兼ねて遊びに来る人は多いけど、その日のうちに、みんな帰っていくわ。

それとね、伯母様の家で行儀見習いとか料理とかお裁縫とかいろいろ教わっているの。
私ね、ずっと執事のいる生活をしてたの。
だから何にもできない娘だったの。

じつの父親の会社でさえ、何が何やらわからなくて、自分がお荷物でしかなかったんだもの。
だから伯母様の家でいろいろ教わるのがうれしくて。」


「へぇ、今は何か作っているのかな?」


「ええ、伯母様と共同でタペストリーを作ってるのと、あとは私ひとりで・・・セーターをね。」


「自分のセーターかい?」


「違うの。私が伯母様のところに住んでることを許してくれた人に。
さっき言った父の会社を継いでくれた人のセーターなの。

まだまだこったデザインとかきれいに編めないんだけど、その人のお兄さんから連絡をもらってね。
私の我がままをきいてくれてるって・・・きいたものだから。

その人はね、もともとは私の執事もしていて何でもできるの。
だから私の編んだセーターなんてバカにしちゃうかもしれないけど、それでも自分で何かできたって報告がしたいの。

何もできないから呆れられてるとは思うし、話すといつもバカにされてばかりなの。
だけど、私だって何かできるって言いたいし、自分が差し出せるものがもう体しかないなんて嫌だったの。」


「そんなことはないんじゃないかな。
体目的なら、もっと早く誘惑とかできてしまうだろ?」
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