アルバイト執事にご用心
クレアはいつになく、熱くしゃべっていた。

セイはそんなクレアに興味をおぼえて黙って話をきいていた。


「私にはもう身寄りもいないのよ。
ひとりぼっちのお嬢様なんて執事どころじゃないわ。

お父様の過保護も過保護でしかなかった。
家にいるとね、プライドなんておこがましことはいえないけれど、私自身がどんどんおいて行かれて壊れてしまいそうになるの。

それでゼイルが一生懸命これだけやったって見せてくれるのがつらくて。
あ、ゼイルって私の執事だった人なんだけどね。
せめて対等に話ができればいいと思ってここにきたのよ。
だけど、まだまだ先の話になりそうだわ。

私は不器用だからほんとに、いつ家にもどれるかわからないもの。」



「家に帰らないつもり?」


「前はゼイルが仕事でいない時を見計らって洋服を取りに行ったりしたこともあったけど、今は帰らないの。
きっとゼイルに立派なお嫁さんがきてお父様の会社を家族で支えてもらえればいいと思う。

でもその前にセーターは渡せたらいいなって・・・私は私の道を歩んでいくからいいって・・・。」


「そこまで考えたなら、なぜ今君は涙をためているんだい?」


「えっ?涙なんて・・・私は泣いたりしません。
あんなやつ・・・私には何もできないって言った人なんか・・・でも何もできないから。
うっ・・・。」



「クレア、君は何もできないなんてことはないよ。
ほら、この店だって以前はこんなに人が来なかったんだろ。

今じゃ、君のおかげで客の入りもすごい。
それにお父さんだって過保護でもなんでも、たったひとりの家族を大切にしたかったんだろう。

そのゼイルさんだってきっと早くもどってきてほしいんじゃないかなぁ。」


「もどってほしいのは体と肩書きだけだわ。
いきなり抱きしめてきたり、わけわかんない。

でもはっきりいったの。他のやつよりできないくせに・・・って。
やっぱり個性的なできることを持ってる人の方がうれしいのよ。」



「それで、がんばることにしたんだね。」


「違うわ。会社でお世話になってるご家族の皆さんがいつもと同じに暮らせている実績とか、私じゃ絶対できないことをしてもらってるお礼はしなくちゃいけないから。

私はもうゼイルとは何でもないわ。もういいの。」


「じゃあ、明日、俺とデートしよう。ねっ。」


「えっ・・・私何も知らないから、面白くないですよ。」


「いいんだ。俺は楽しめるから。」
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