アルバイト執事にご用心
クレアが震え始めた。

そういえば、倒れてからの記憶がぜんぜんないが、どこかの部屋へ運ばれた気がする。


「あまりにお酒に弱かったのが誤算だったんだ。
だから、君をかついで出るのが俺にもしっかりわかった。

俺はすぐに追いかけていって、君が襲われるのを阻止したんだ。
あとで、部下に調べさせたらダリアムの部下だった。」



「やっぱり場違いだったのね。
ダンスパーティーって怖いのね。」


「そんなことはないよ。健全なパーティーか、俺がしっかりエスコートしていれば。
ごめん。何も知らない君をひとりにした俺のミスだ。」


「だって、ゼイルは黒い髪の美人ととてもお似合いで、ダンスもとてもうまかったわ。
私なんかぜんぜんできないことだもの。」


「今はできなくて当然だ。
学生の本分は学業だからね。

それに、今度のことで俺も舐められたもんだってよくわかったよ。
やっぱり、君を連れていくべきではなかった。

仕事関連だったら職場から誰か連れていけばよかったんだ。」


「そ、そうね。私じゃ何の役にもたたなかったんだもん。」


「それは違う。君がクアントの娘だってわかってる人はみんな感心してたよ。
会社のために必死になって、話をあわせてたって言ってくれた。」


「でも、私な~んにも会社のことなんて知らないものだから、世間話にちょっとおひれがついたようなもので・・・何の役にもたってないって。」


「つらい目に遭わせて悪かった。
俺は君に拒絶されると、何も見えなくなってしまう。

でも、あいつらに連れて行かれる君を見たときは心臓が止まりそうだった。
正直いって、殺してやろうかと思った・・・。

でも秘書に声をかけられて、何とか冷静に対処できたとは思う。
部下といっしょに君を奪還してきたからね。」



「そんなに大変だったんだ・・・ほんとにごめんなさい!」


「君が謝ることはないんだって。
会社を経営することになって、どこか気分が緩んでいた。
俺は自分が付け狙われいることをもっと早く知らなくてはならなかったのに。

執事としても兄さんに劣るはずなんだよな。
自分の結婚式まできちんとあげられる兄さんにはまだ勝てそうにない。」



「ゼイル・・・。そんなに落ち込まなくても。原因は私なんだし。」


「違う。もっともっとわかるように君を大切にしなきゃいけなかったんだ。」


「だって、しょうがないわよ。ほんとのフィアンセじゃないし。ね、あははは。」


「俺はほんとのフィアンセになってほしいと思っているんだが。」


「へっ!?」
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