魁の沙羅双樹
一章 絡んだ糸は蜘蛛の巣の如し
風を切る音だけが
耳を支配する。
一斉に散った桜の花びらの中に
紅い、紅い花びらも
宙を舞った。
その情景を、愛しむように微笑み見つめる
少女が、ひとり。
「綺麗」
呟いた声は、誰もが身震いするほど美しい。
少女は、その手に握った刀を
鞘に納める。
そして、ふわりと軽い髪を靡かせて
機微を返した。
─────……ある、夜の日の、出来事である。