記憶 ―黄昏の蝶―
行き先も告げず、進み出す舟。
若干の不安と疑問を持ちながら、俺は男に話し掛けた。
「舟師様のお帰りはどちらで?」
俺は平静を保ちながら穏やかにそう聞いたが、彼から返事は戻ってこない。
「…舟師様?」
協会に反発する連中も居る事は知っていた。
だから、少し嫌な予感がしていた。
彼の顔を見ようと目を凝らすと、俺の表情はとらえているのか口元が微かに笑っているのが伺えた。
「…ふふ、行き先ですか?貴方様と同じ場所で結構ですよ?」
「……舟師様…?」
「あぁ、行き先も告げていないのに何故なのか、と…お考えでしょうね…?ふふ…」
不気味な笑み。
やはり、これは敵意の込められた言葉なのか。
男の態度に、馬鹿にされている様にも思えた。
しかし…、
こんな事で慌てる程、気の弱い俺じゃない。
『面倒くせぇなぁ』
頭を過るのは、そればかり。
「…協会の定める法はご存じでしょうか?…33条、『闇の季節、終業時間以降の外出禁止』。送っていただく身で大変恐縮ですが、場合によっては上に報告させていただかなくてはなりませんよ…?失礼…」
はぁ…と溜め息を漏らしながら、男の前にある積み荷の布をめくりあげる。