記憶 ―黄昏の蝶―
「…何の事やら分からんじゃろうが、礼を言いたい…。リュウ、有り難う…」
じぃさんはそう言って、
俺にゆっくりと頭を下げた。
ユピテルも言っていた。
有り難う、と。
そして、
ごめんなさい、とも…
それの意味する事は、
俺には全く分からなかった。
……腑に落ちない。
誰もが、氷の中に居た彼の存在を覚えていない。
唯一打ち明けたじぃさんには、
このまま、俺だけの心に留めておけば良いのだと言われた。
何もする必要は無いと…。
普段なら、ビビに話す。
しかし今回の事だけは、どうしても言えなかった。
俺自身、よく分かっていない。
あまりにも非現実過ぎる。
こんな内容を話せる筈もない。
協会本部に戻された、
「蝶の羽根」は、
昔の伝承を証明する貴重な材料として大切に保管された。
証明されたのは、
カロリスが生まれた天災前のこの星の大地が、緑豊かであり、本当に蝶々が存在していたという事。
人柱の伝承については、
人々から忘れ去られたかの様に、誰もが口にはしなかった。