記憶 ―黄昏の蝶―
「…いいなぁ、蝶々!俺も協会本部に戻されちゃう前に、一回実物を見たかったよ~!」
予想通り、
カイトは蝶々の話題に食い付いていた。
「緑溢れる大地!空を自由に舞う蝶々!――いいなぁ!憧れるよなぁ~!」
法皇が人々に語ったのは、
伝承とされていた蝶という存在が事実だったという事。
協会の地下に洞窟が存在した事と、その洞窟の中に大昔に建造された小さな祭壇が在った事。
それは事実として伝えられた。
一緒に居た筈のジークでさえ、
彼の事は覚えていなかった。
「…蝶々は光を求めて、集団で星を大移動するんだとさ…」
「――へぇ!」
でもアイツは違った。
光から逃れる為に、この星の裏側へと旅立った。
残された「蝶の羽根」…
一体、
アイツは何だったんだろう…
どうして俺にだけ、
彼の残した「魔法」が掛からなかったんだろう…
蝶の様に飛べるなら、
星の裏側まで彼を追い掛けて、
この瞳で確認出来たのに…
…考えるのは止めだ。
どうしたって分かりゃしないんだから…
俺は考えるのを止め、
少しずつ以前までの日常生活に戻っていった。
きっと、
その内に忘れるだろうと、考えない様にしていた。