記憶 ―黄昏の蝶―


「…ぁ…!」

男がそう慌てた声をあげるのと同時に、

――ゴト…

と舟板の上に転がったのは、
何かの詰まった瓶。

さて、
何が入ってるんだか?
法に触れるヤバイ物なのか?

それを拾い上げ、
俺は中身を凝視する。


「…これは、…土ですか?」

俺がそう見上げると、
やれやれと男が両手をあげた。


「…33条、だって!笑える!堅い事言うなよ、リュウちゃんと俺の仲じゃん。」

「…はぁ!?」

思わず『素』が出た。

土を売る男で、
お堅い協会の一員である俺を『リュウちゃん』と呼ぶ男。

…アイツしか居ねぇ。


「…カイト!?」

「あはは!いつ気付くかな~と思ってー?いつまで敬語使わせるんだよ!疲れるじゃん!?」


「…そりゃ、こっちの台詞だよ。疲れてんのに、面倒くせぇ事すんじゃねぇ…」

一気に張り詰めていた緊張感は解かれ、俺の背筋が丸まる。
偽り無い、本来の俺へと戻る。

この声に…
俺はどうして気付かなかったのだろう。

『同じ場所で結構ですよ?』

そりゃ、そうさ。
同じ家に住んでいるんだから…


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