記憶 ―黄昏の蝶―
「この金首飾りさえなきゃ、俺だって完全な異端者なのにな…」
俺がそう言って首飾りを弄ぶと、ジークは気だるそうにパタンと無駄に厚い資料を閉じた。
「…異端者か…。リュウがそうだと言うなら、俺だって異端者だ。皆、同じ様なものだ。半信半疑…、困った時の神頼み。今の住民の多くは心から純粋には信仰してはいないだろ。」
「…そうか?」
「確かにお前ほど薄っぺらい事は無いが…。こうなったら話は別だ。カロリスの水位が下がってる話は聞いた。俺だって今の生活を守りたい…。」
昔から協会の幹部であるジークの口から出てくる言葉とは思えなかった。
「…ジーク…」
「何を驚いてる?俺だって唯一残った家族…カイトや、息子同様に可愛がってきたお前を守りたい気持ちはある。皆、いざとなったら神より近い存在の方が大事だろ?」
「……驚いた…」
俺と同じ想い。
普段はお互いに憎まれ口や冗談ばかりで、今になってジークの本心に初めて触れた気がした。
しかし感心も束の間、普段の調子にすぐに戻った。
「――お父さんと呼んでいいんだぞ?リュウ!抱き締めてやろうか!」
「……遠慮する」