記憶 ―黄昏の蝶―
俺の悩む隙もない返答に、俺に向けたジークの両手が力無くダラリと下がった。
「…そ。…冗談はさておき…」
いや、
今すっげえ残念な顔しただろ。
「…カロリスの外れに行くなら舟がいるだろ。協会の金首飾りが、許可無く異端者の集団の住む地に行くとなると、舟師を使うのは無理だ。」
まぁ…、
じじぃから許可が出るはずはなく、人が寄り付かない危険な場所にわざわざ送ってくれる舟師もない。
「舟を扱える俺が一緒に行ってやりたいところだが…」
「――いや、協会幹部が2人も行方知れずになりゃあ、じじぃが気付く…」
「そう、それに俺は片付け嫌いの誰かさんに代わって、この大惨事の片付けもしなきゃなんないしなぁ?」
ジークは意地悪く笑うと、空になりかけた棚と床に散乱した資料の山を、繰り返し顎で指し示した。
「……はは、…泳ぐよ…」
よくもまぁ、
こんなに散らかしたもんだ…。
「――カイトを使え。」
「…ぇ。でもなぁ…」
アイツを巻き込むのも気が引けるし、そもそも俺の言う事を聞くかどうか…
「カイトは、カロリスの外れに…行き慣れてるんだよ…。」
ジークはそう言って、
困った様に瞳を伏せた。