記憶 ―黄昏の蝶―


「…大丈夫だよ、そんな深刻な顔しなくても!敵意さえむき出しにしなきゃあ、気の良い連中だって!」

カイトはそう言って笑った。
あまりに楽観的過ぎて、余計に心配になる。

ギィ…ギィ…
と馴染みの舟音を出しながら、舟はカロリスの外れを目指して進んでいた。


「…ほらほらぁ~、笑って?リュウちゃん。只でさえ真顔が怖いんだから~!」

「……あぁ」

カイトはジークの命令だと告げると簡単に俺を乗せた。
何だかんだ言いながらも、実の父親には弱いらしい。


『カイトはカロリスの外れに行き慣れてるんだよ』

ジークの言葉の意味を、
俺は早々に理解出来ていた。

土売りの商売道具である「土」を、カイトはカロリスの外れから手に入れていたのだった。


「…何で言わなかったんだよ?」

「え、だって!場所が場所だし、心配しちゃうでしょ~?リュウちゃん優しいから。」

「……別に…」

中心地に比べ水場の底も浅く、人魚でなくとも潜れば容易に手に入る。
また、手間は掛かるが切り立つ絶壁の崖を削り取れば、潜らずとも土に近い物は手に入るだろう。

数年この地に通うカイトは、異端者たちに対する恐れを持ってはいなかった。

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