記憶 ―黄昏の蝶―
「平気だよ~?別に怖い人たちじゃないし、快く分けてくれるよ?土。」
そう笑うカイトの言葉を、完全には信じきれない自分がいた。
誘拐されかけた事がある。
カイトには言い出せなかったが、その事も俺にとっては事実に違いないのだ。
少しずつ風景が変わり、水場にはゴツゴツとした岩影が増えてきていた。
街の中特有のざわめきも遠ざかり、カイトの漕ぐ舟音と水の音だけが辺りに響いていた。
俺は外出時に必ず着ている協会の白ケープを脱ぎ、其れを布袋に詰め込むと、代わりに淡い青色に染められた服を着た。
そして、襟元に金首飾りを隠す様に押し込んだ。
「ほらほら、リュウちゃん笑って。怖い顔してると向こうも警戒しちゃうでしょ!」
「…あぁ、分かってる。」
得意な筈の愛想笑い。
それが上手く出来ない。
その理由は、他にもあった。
カロリスの水位が下がり、
気温が上がり続ける街。
人魚たちに影響が出ないのかという心配事が、現実に起こり始めていた。
体力の少ない者。
孤児院の人魚である子供たちが体調を崩し始めていた。
医者は、風邪だと診断した。