記憶 ―黄昏の蝶―
「…いやぁ、明後日は『光祭り』で稼ぎ時じゃん?だから商売道具を仕入れるのに精を出しすぎちゃって~」
だから帰りが遅くなってしまったのだ、と舟に灯りをつけながら笑った。
「…あっそ。」
そう素っ気なく答えながら、俺はこの煩わしいケープを脱いでやろうと再び手を掛ける。
にわかに明るくなった橙色に染まる舟の上で、そんな俺の行動を奴が止めた。
「…ちょっと、リュウちゃん!舟、灯しちゃったからケープ脱いじゃダメでしょ!?」
「……なんで。」
「なんでって、33条!『協会の金首飾りを送り届ける』って理由が無いと、俺が罰せられちゃうじゃんか。」
「…じゃあ、灯り消せよ。さっきまでは人目を気にして、そうしてたんだろ?」
そこで俺を見つけて、堂々と灯りの下で帰れると…奴にとっても幸運だったらしい。
その証拠に、
「ケープ脱ぐんなら、お前をわざわざ乗せてやる理由は無い!降りるか、リュウちゃん!」
と意地悪く水面を指差す。
ちっ…と舌打ちした俺は脱ぐ手を止め、大人しく奴の舟に留まった。
この男は、カイト。
俺たちは本当の兄弟の様に昔から一緒に過ごしてきた。
俺たちの帰る家。
街外れの、大きな『孤児院』。