記憶 ―黄昏の蝶―
誰も気が付いていない。
ただの流行り風邪が、子供たちの間で移っていると思われているが、双子には症状が出ていなかった。
――脱水症状。
中でも、体力のないレンが1番症状が重そうだった。
出掛けにそれを確認した俺は、レンの不安そうな表情に後ろ髪を引かれながらも、この地に出向いた。
レンや子供たちを元気な姿に戻してやる為にも、俺は確かな情報を得て、それを持ち帰る義務がある。
…ギィ……
速度の遅くなった舟の動きに気が付き、俺は瞳を上げた。
そこには、
カロリスの外れである、
絶壁の崖が姿を現していた。
……たけぇ…
首だけでは追い付かず、
体ごと見上げてはみたものの、
頂上は遥かに上に在り、聞いていた通り人の登れる高さではなかった。
あぁ…そうだ。
例のユピテルは、
この崖を登れたんだろうか…
「――着いたよ?」
カイトの言葉に瞳を下げ、辺りを見回すと、絶壁の崖の手前にポツポツとまばらに建物らしき物が在った。
岩場を上手く利用した、高床式の建物の1つに舟を停めると、カイトは手馴れた様子で建物に上がった。