記憶 ―黄昏の蝶―
「―…アキラ~!居る~?」
カイトはそう叫び、中に居る住民に呼び掛けていた。
俺は珍しく緊張していた。
舟の中から動けずにいた。
「…相変わらず騒がしいな、カイト…。朝っぱらから勘弁しろよ…」
寝起きだと伺える青年が、建物の扉からゆっくりと現れてカイトを迎えた。
「えぇ?もう昼だよ!」
「うるせっ!俺にとっちゃ朝なんだよ!バカ!」
あぁ、ここでもカイトの扱いは変わらないんだなぁ…と、他愛ない事で少し緊張がとかれた。
ここの住民は活動する時間がずれているんだろうか。
周辺の表には俺たち以外の人の気配は無かった。
「この前頼んだやつ、持ってきてくれたかぁ?」
「あぁ、そうだ!えーと、この水草と家畜の肉だろ?ごめん、肉は『干し肉』しか手に入んなかったんだけど~…」
「上等だよ!」
2人の会話を読み取り、大体の事の流れは把握出来ていた。
この岩場ばかりのカロリスの外れでは、採れる水草も限られてくるんだろう。
それに家畜が飼える様な広い土地も無く、こうして街の住民から流して貰い受ける。
街には、狭いながらも住民が営む農地や、家畜を飼う区画が多少は在るのだ。