記憶 ―黄昏の蝶―
孤児院は、親を無くした子供たちが快適な暮らしを過ごす為の物。
成人を迎えた者は、職を見つけるなり孤児院を巣立っていく。
それが決まり事だ。
しかし、
俺たちの様な「例外」もあった。
「…お前、いつまで『土売り』なんてインチキ商売してんだよ。俺の専属舟師になれって。」
「…ヤダね。リュウちゃんの部下なんて絶対にお断り!」
ギィ…ギィ…と、
舟師顔負けさながらに器用に舟を操りながら、カイトは俺に舌を出した。
土売りは、違法ではない。
しかし正式な職業にならない。
正式な職に就かないと、孤児院を巣立つ事は協会に許可されない。
それがカイトがあの家に残っている理由だ。
まぁ、元から…
当の本人に孤児院を出る気が無いのだが…。
それは俺も同じだった。
孤児院は、協会が主に運営資金を出している。
じじぃ共の内情視察もあれば、協会への報告義務もある。
『子供たちを、のびのびと立派に育てて下さい』
口では何とでも言える。
実際は協会の管理下、監視下で窮屈なだけだ。
そこで、俺。
今は協会の一員である俺が、孤児院で暮らしながらの「監視員」という表向きで、じじぃ共を黙らせているのだ。