記憶 ―黄昏の蝶―
アラタは老いたお祖父さんに代わり、この崖の上での全てを取り仕切っているらしい。
飲み物をすすり、緊張感の欠片も無かったが、俺の質問には丁寧に答えてくれた。
この崖の上の木々は、光の季節の暑さに強い種類らしく、成長も早い。
闇の季節に必要な分の伐採をし、その上で新しい若木を植える事は、数世代続いている彼らの仕事らしい。
公にはしていないが、
一部の街の舟師とは古くから取引を行っているのだと教えてくれた。
提供するのは、木材と土。
代わりに手に入れるのは、アキラ同様に家畜の肉や水場でしか採れない水草の類いだろう。
勿論、協会が関与していない、日陰の『闇取引』だ。
カロリスの舟師がこの崖の上に通される日は決まっているらしく、俺は今日特例として通された様だ。
お陰で知った顔に出くわす事もなく、身分を隠せていた。
「…協会の幹部であるリュウ君は…、上に報告しちゃうのかい?それは困っちゃうなぁ~…」
アラタは一応確認をしたが、それは緊張感の無い声で、勿論俺にその気が無いと分かった上での事だろう。
俺が当然の様に首を横に振ると、『あ、そう?』としまりの無い笑顔を向けた。