記憶 ―黄昏の蝶―
「…アキラのお祖父さん…。いや、『じぃさん』と呼ぼうか…。もう俺に姿を隠さなくてもいいよ。」
俺は彼の前にドカッと腰掛けると、彼の表情を覗き込む様に首を傾げた。
どうして気付かなかったのか。
この口調、俺を丸め込む様なこの雰囲気。
彼は『あまりカロリスの街の住民には顔をさらしたくない』と言っていた。
現にカイトには会おうとしなかった。
「…俺はもう驚かない。街の住民にも、『あの人』にも言わない。だから…」
「…ふふ、流石じゃ…。頭の回転の早い子じゃな…」
そう困った様に笑いながら、俺の目の前に現れたのは、よく知っている顔だった。
俺の親代わり。
孤児院の、院長。
「…同じ顔じゃろ?わしはお前さんのよく知る人物の、双子の兄じゃよ…。」
「あぁ」
じぃさんは人魚ではない。
『双子』なんだ。
「…向こうは知らねぇんだろ?」
「あぁ、知らない方が幸せじゃろ。…物心つく前にな、母親がこの土地に嫌気をさして街に出ていってなぁ。彼は母親に連れられていったそうじゃ。」
俺の知るじぃさんは何も知らされず、事もあろうに協会の幹部にまでなってしまった。