記憶 ―黄昏の蝶―
相反する立場。
じぃさんは今は孤児院の院長だが、じぃさんの顔を知らない街の住民は居ない程に有名になっている。
「あんたが顔を公にしない訳は、あっちのじぃさんの立場上、バレるとあっちが困ると思ってだろ?」
「…あぁ。協会幹部が、実は初代の異端者の末裔などとあっては、非難されるじゃろ…」
俺がじぃさんに守られて育った様に、じぃさんもまた、この人に守られて生きていたんだ。
「…もう引退した。名乗り出て、会わないのか…?俺が連れてこようか?」
俺に出来るのはその位だ。
しかし、じぃさんは首を横に振った。
「…今更じゃ。互いに幸せに暮らせればそれで良いんじゃよ…。ふふ、有り難うなぁ…。」
「いや…」
「…お前さんを見てれば、弟が幸せなのは分かるよ…」
目の前のじぃさんは幸せそうに顔を崩して笑っていた。
どこか照れ臭くて、
俺はガシガシと自分の頭を掻いていた。
幸せ、か…
今起こっている問題を解決しなければ、それも…消える。
俺は自分の胸に手を当てた。
俺が、
俺だけが与えられた…使命。