記憶 ―黄昏の蝶―


「…俺には親が居ない。育ててくれた院長には、すげー感謝してる。俺は孤児院の前に捨てられていた、と聞いた。でも、少し…違う…」

「…と、言うと?」

そう、違うんだ。
俺はじぃさんの瞳をじっと見て話した。


「…拾ってくれたのは、あんただろう?それで、わざわざ孤児院の弟の元に…、街の孤児院の前に俺を置いたんだ。」

確信に近かった。
もう俺は真実を、
受け入れてしまったから。

捨てられたんだと思っていた。
俺が人魚だからいけないんだと思っていた。

でも、違った。


「…あんたが、赤ん坊の俺を見付けた場所は……」

「――崖の上…。お前さんが先程まで居た、あの祭壇の上じゃよ…」

どうして知っているんだ、と。
じぃさんの表情は、今までにない深刻なものになっていた。

それを見て、
俺は「ふっ」と笑った。

俺を拾ったじぃさんでさえ、俺が何者かを知らない。


帰る場所が分からなかった。
他の子供の様に、前世の夢を見れなかった。

自分は変なんだと、
幼い頃から悩んでいた。


「さっき…分かったんだ。…俺は…。俺は、この星の住民じゃない…。」


俺は、
あの白い星の「欠片」。


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