記憶 ―黄昏の蝶―
「……素直じゃねぇなぁ…。悪いな、アキラ。心配いらないよ?『泳いで帰れ』ってのは、カイトは意地悪で言ったんじゃねぇんだ。」
「…は?」
本気で心配してくれていたアキラに申し訳なくて、俺が機嫌の悪いカイトに代わって説明をする事にした。
「…俺は人魚だから。」
そう言いながら、
水に濡れて現れた『水掻き』を、手を広げて見せた。
「カイトの言う通り、泳いで帰るよ。カイトの舟で帰るより、人魚が泳いだ方が速いんだよ。」
「…あぁ、それでか?」
アキラの表情から力が抜けた。
代わりに、カイトの唇が余計に突き出ていた。
「そ。そこのふて腐れてるカイト君はね、『緊急だから早く帰ってやれ。俺は後から追い掛けるから。』って言ってんの…」
「――いいから、行けよ!!リュウちゃんのバカ!!」
まるで子供だ。
カイトはそう叫びながら水場に屈み、水をすくっては俺にかけてくる。
濡れた髪の毛に青みが差す。
「――…カイト。帰ったら、お前だけには全部話す。」
ピクリと手を止めると、
渋々頷き、普段のカイトに戻っていた。
「…気を付けて帰ってよ?」
「あぁ、じゃあな。アキラも、有り難うな!」