記憶 ―黄昏の蝶―
暫くは浅瀬が続く。
顔を出したまま、ゴツゴツとした岩場に足をぶつけない様に気を付けて水を蹴った。
やっとスムーズに水を蹴れる深さまで来ると、崖側の方を振り返ってみた。
未だ彼らはその場所に留まり、俺の方を注意深く見ている事が伺えた。
距離が離れ、手のひらの大きさ位になった彼らに、俺は大きく手を振った。
俺はそれから、
水の中へと潜っていった。
光の季節。
水の中は明るく、透明度も高く、容易に底の深さまで見渡す事が出来る。
コポ…コポコポ…
水を蹴り速度が増すと、俺の口から出た空気の泡が後ろの方へと流れていく。
その空気の泡が光に反射し、
俺の通った水の経路を、キラキラと飾り付けていた。
この光景が好きだった。
しかし、
今日はそんな光景を楽しむ余裕もなく、ただただ泡を置いてきぼりにして、速度だけを上げていた。
『ビビが倒れた』
彼らの前ではなるべく平然を装っていたが、1人になると気持ちが焦るばかりで泳ぎには無駄な動きが出る。
子供たちの看病をして、心労が溜まったせいで症状が出たのだろうか…。
大人にまで症状が出始めた。
そうなると、免疫力の低い老人たちも脱水症状を起こしているに違いない。