記憶 ―黄昏の蝶―
濡れていた服は簡単には着替えたが、髪や肌は未だひんやりとしている。
「…あは、本当だ!お父さん、泳ぐのすっごい速い?」
「…すっげぇ速いなぁ?」
ニヤリと笑いながら俺が得意気にそう言うと、レンは楽しそうに明るい表情を見せた。
「光の季節なのに、夢を見たんだよ?僕は茶色い『ヒヒン』て鳴く動物で、砂ばかりの場所で風をきって速~く走るんだ!気持ち良かった。」
「そっか。じゃあ…人魚のレンは、きっと泳いでもお父さんより速いかもなぁ?」
「そうかなぁ!」
嬉しそうにニコニコと笑う、
この子たちの未来を奪う事があってはならないと思った。
「…レンは…。将来、大きくなったら何かなりたいものはあるか?」
就きたい職業を聞いたつもりだった。
舟師とか、協会の職員とか、
あまり賛成は出来ない、カイトの様な『土売り』とか…。
「速く泳げる、お父さんみたいな人魚になりたい!」
レンから返った意外な言葉に、俺は苦笑していた。
「…レンは元々人魚だろ?練習すれば速くなるよ。そうじゃなくて別の物…」
「え~…?分かんないよ。じゃあ、速く走れる動物かなぁ?…お父さんは?」