記憶 ―黄昏の蝶―
どうしてもレンの幼い頭の中では、職業には結び付かない様なので、俺も方向を合わせて答えた。
「……蝶々かな。」
「――蝶々?図鑑に載ってる羽根があるやつ?もう今は居ないんでしょ?学校で習ったよ!」
「あぁ、でもな?秘密の話だが…お父さんは遠くのお仕事中に、見たんだよ。ひらひら、自由に空を飛ぶんだ…」
嘘じゃない。
俺は白い蝶々を見たんだ…
そして、これから…
「へぇ!いいな!僕も見たい!」
「いつか…この街でも見れるかもしれない。…もし見付けても、捕まえちゃいけないんだぞ?」
「……うん?」
「もしかしたら、蝶々になれたお父さんかもしれないからな?」
レンは笑って頷いていた。
幼いレンでも、人間が蝶々になれるはずがないと、俺の冗談だと思って笑っている。
「…絶対だぞ?蝶々は苛めるなよ?皆にも言っとけよ?」
「あはは!分かったよぉ~」
俺はレンの髪を撫でると、
「もう休め」と子供部屋を出た。
廊下へ出ると、
俺は大きな溜め息をついた。
どこまで耐えられるか。
平然と明るい表情を保つ事は、普段からの『協会幹部』の顔で慣れているつもりだった。