記憶 ―黄昏の蝶―
「…流石に、辛いな…」
俺自身が幼い頃から育った、
慣れ親しんだ孤児院。
思い出や歴史が多すぎる。
この場所では、
飾りない俺で居られた。
それも、昨日までの事だ…。
「…あぁ、どうして…こうなったんだよ…」
目を伏せても分かる、
俺の場所、『俺の家』の匂い。
廊下の壁には、
幾つもの落書きを消した跡。
何かの拍子で付けた傷跡。
その内の幾つかは、やんちゃだった幼い俺やカイトが付けた、この家の歴史。
「…運命を…呪うべきか…」
俺は、これから…
『帰るべき家』を失う。
幸いな事に、この孤児院が無くなる訳ではない。
俺が付けた…
俺がここで育った「歴史」だけは、このまま残るだろう。
いや、残って欲しい。
俺が、
ここで生きた「証」として。