記憶 ―黄昏の蝶―



「……ビビ?」

ビビの休む部屋の扉をトントンと軽く叩き、そっと中の様子を伺った。

丁度、俺の声に反応したビビが、ベッドから身を起こしているところだった。


「…起きてたのか…。いいよ、未だ横になってろよ…」

「お帰りなさい、リュウ。大丈夫、ジークに甘えて随分休んだのよ?ごめんね?急いで帰って来てくれたんでしょ…?」

ビビは申し訳なさそうに、「ふふっ」と表情を崩して笑った。

未だ本調子ではないんだろう。
笑顔に普段の力が無い。


「…大丈夫か?」

「うん。ちょっと疲れちゃっただけよ?それに…リュウの顔見て、安心した…。良かった…、無事に帰って来て…。」

強く見せていても、
実は繊細で心配症なビビ。


まるで見えない力で引き寄せられる様に、俺はビビの温もりを求めた。


「……ただいま…」

ベッドに腰掛け、
ぎゅっと彼女を抱き締めると、

同じ位強く、瞳を閉じた。


「…ただいま、ビビ…」

2度、同じ言葉を繰り返した。
胸の奥も、目頭も熱かった。


もう「ただいま」を言えない。

もう…
君を抱き締めて、
体温を感じる事が、出来ない。

そして、
それを伝える事も、出来ない。


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