記憶 ―黄昏の蝶―


「…慣れない場所に行って疲れたの?元気ないわね?それとも、リュウも風邪かしら…」

耳元でビビが呟く。

耳に掛かる彼女の吐息が、
俺の心を一層に切なくさせた。


「…いや、大丈夫だよ…」

「そう?…じゃあ、元気になる事を教えてあげましょうか?」

ビビは俺の体を引き離すと、
何かを企む子供の様な表情で、俺の瞳を覗き込んだ。


「……何だ?」

「うふふ。リュウの『お父さん』の仕事は、これからもっと大変になるかもしれないわよ?」

「……?」

俺が首を傾げていると、

ビビは、
『自分の下腹部』に、
そっと両手を添えて言った。


「…この家にね、子供がもう1人増えるみたいよ?」

「……!?」

何も言葉を発する事が出来ず、
ただビビの顔と下腹部を、何度も繰り返し交互に見ていた。


「最初にリュウに言わなきゃと思って、まだ皆には言ってないけど。…さっきお医者さんに見てもらったから確かよ?」

すると、
ビビの体調不良の原因は…


「……あら、自分の子供なのに喜んでくれないの?」

ビビが固まる俺の表情を見て、唇を尖らせた。


「……いや!…びっくりして…」


俺に、…子供?


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