記憶 ―黄昏の蝶―
「……ちょっと…また、出掛けなきゃなんないんだ…。悪いな?ビビ。こんな時に…」
「…うん?協会の仕事?」
協会の仕事。
俺はビビを抱き締めたまま、
顔を見ずに頷いた。
「…また泊まり掛け?」
「――あぁ。行ってみないと、いつ帰れるか…」
帰れない。
戻って来れないかもしれない。
俺はそれを言えなかった。
「…嫌な仕事だわ。協会の幹部なんて。いつも周りの都合ばかりに振り回されるんだもの。」
「はは、そうだな?……最後の、大仕事かな。戻ったら、…協会幹部なんて辞めて、カイトに舟の操作でも習うさ…。」
「あら、素敵。孤児院お抱えの舟師さんになるのね?」
買い物も用事も、いちいち舟師を呼ばずに済むと、ビビは瞳を輝かせて喜んでいた。
「…俺が帰るまで…、頼むよ…」
いつ帰れるか、
…分からないけれど。
「……いってらっしゃい。」
「あぁ…」
君に…
君と…、
顔も知らない俺の子供に、
必ず、
「ただいま」を言うよ。
この愛しい「世界」を、
救ってから。