記憶 ―黄昏の蝶―


お調子者め。
やっぱり、こいつの世話になんかなるんじゃなかった…

…面倒くせぇ。


「…うるせぇな…黙れよ…」

俺はそう言い捨てて、

水の中へと足を進めた。



「人魚」…

だからといって、
普段の生活では彼らと何ら変わる事はない。

ただ…
水の中に入ると、

「人魚」だという事が、
明らかになってしまう。


普段は、
皆と同じ黒い髪色。

水に濡れるだけで、
その黒に、青みが掛かる。


普段は…
皆と同じ肺呼吸も。

不思議と、水中の酸素を集められる様になる。

別に…
例えば、魚の様に姿が変わるわけでも無ければ、化け物でも無い…。


ただ少し、
速く泳ぐ為に必要な「水掻き」が、指の間に現れるだけ…

ただ、
それだけだ…。



このカロリスでは、
昔は「人魚」が多く生まれていたと聞いている。

しかし、
いつの頃からなのだろう。

今や人魚である方が珍しい、逆転した世の中なのだ。


だから…
俺は、捨てられたのか…?

聞いて確かめたいにも、
確かめる相手すら知らない。


< 18 / 238 >

この作品をシェア

pagetop