記憶 ―黄昏の蝶―
お調子者め。
やっぱり、こいつの世話になんかなるんじゃなかった…
…面倒くせぇ。
「…うるせぇな…黙れよ…」
俺はそう言い捨てて、
水の中へと足を進めた。
「人魚」…
だからといって、
普段の生活では彼らと何ら変わる事はない。
ただ…
水の中に入ると、
「人魚」だという事が、
明らかになってしまう。
普段は、
皆と同じ黒い髪色。
水に濡れるだけで、
その黒に、青みが掛かる。
普段は…
皆と同じ肺呼吸も。
不思議と、水中の酸素を集められる様になる。
別に…
例えば、魚の様に姿が変わるわけでも無ければ、化け物でも無い…。
ただ少し、
速く泳ぐ為に必要な「水掻き」が、指の間に現れるだけ…
ただ、
それだけだ…。
このカロリスでは、
昔は「人魚」が多く生まれていたと聞いている。
しかし、
いつの頃からなのだろう。
今や人魚である方が珍しい、逆転した世の中なのだ。
だから…
俺は、捨てられたのか…?
聞いて確かめたいにも、
確かめる相手すら知らない。