記憶 ―黄昏の蝶―


俺は下へ下へと、
生温い水を掻き進んだ。


闇の季節に、水中に潜るのは好きじゃない。

光の届かない、
暗い暗い水の中…

どちらが地上なのか、
帰るべき場所を見失ってしまうから…。


ここが街外れで良かった。
カロリスの中でも岩場の多い、まあ浅い場所だ。


水は澄んでいる。

俺が動く度に揺れる「金色の首飾り」が暗い岩場をやんわりと照らし出す。

嫌いな支給品。
なかなか役にも立つから、余計に腹が立つ。


在った…
あの瓶だ…

岩場にひっそりと引っ掛かる瓶を手に取ると、俺は上を見上げた。

…上…だよな?


コポコポ…
コポ…コポコポ…

そう吐く息が上っていく。

それを追い掛けて、
俺も地上を目指すのだ。



地上に近付くと、
カイトの舟の灯りで、水面が橙色に揺らめいて見えた。



――バシャン…

そう水面から頭を出すと、
船着き場に膝を付き様子を伺っていたカイトと目が合った。


「…在った?リュウちゃん。」

そう聞く奴にジロッと睨みをきかせ、ポイッと瓶を投げ渡した。


今の俺の肺の中は、沢山の水で満たされている。
文句を言ってやろうにも、容易に喋れないのだ。


< 19 / 238 >

この作品をシェア

pagetop