記憶 ―黄昏の蝶―
俺は下へ下へと、
生温い水を掻き進んだ。
闇の季節に、水中に潜るのは好きじゃない。
光の届かない、
暗い暗い水の中…
どちらが地上なのか、
帰るべき場所を見失ってしまうから…。
ここが街外れで良かった。
カロリスの中でも岩場の多い、まあ浅い場所だ。
水は澄んでいる。
俺が動く度に揺れる「金色の首飾り」が暗い岩場をやんわりと照らし出す。
嫌いな支給品。
なかなか役にも立つから、余計に腹が立つ。
在った…
あの瓶だ…
岩場にひっそりと引っ掛かる瓶を手に取ると、俺は上を見上げた。
…上…だよな?
コポコポ…
コポ…コポコポ…
そう吐く息が上っていく。
それを追い掛けて、
俺も地上を目指すのだ。
地上に近付くと、
カイトの舟の灯りで、水面が橙色に揺らめいて見えた。
――バシャン…
そう水面から頭を出すと、
船着き場に膝を付き様子を伺っていたカイトと目が合った。
「…在った?リュウちゃん。」
そう聞く奴にジロッと睨みをきかせ、ポイッと瓶を投げ渡した。
今の俺の肺の中は、沢山の水で満たされている。
文句を言ってやろうにも、容易に喋れないのだ。