記憶 ―黄昏の蝶―
平行線のままだった。
これ以上どう言えば納得して貰えるのかなんて、未熟な俺には分からない。
「――離せよ!!頼むから…」
「嫌だって…言ってるだろ!!」
まるで子供の喧嘩。
お互いに瞳を赤くして、どっちが先に泣き出すかを競っている様な、我慢の時間だった。
「じじぃ!黙ってないで、カイトを説得してくれよ!」
「法皇様!リュウちゃんの馬鹿な考えを止めさせてよ!さっきの話だって、本当かどうかなんて分かりゃしないんだからさ!」
「…何だと!この野郎…」
この期に及んで、
まだそんな事を言い出すのか!
そう俺が舌打ちし、
カイトの胸ぐらを掴んだ時だった。
「……止められやせん…」
法皇がそう静かに口を開いた。
その目線は、俺の胸辺りに集中していた。
「…瞳の病気でな、もうろくに見えやしないこの目にな?さっきから映っている物が、あるんだよ…。」
「「……は?」」
法皇が何を言っているのか分からず、俺たちの動きは止まり、法皇の次の言葉を待った。
「…白いモヤが掛かった様な視界でな、もう人の輪郭も、色さえもぼんやりとしか見えない瞳にな…。はっきり映ってる物があるんだよ…」