記憶 ―黄昏の蝶―
ゆっくりと確かめる様に、
法皇は同じ言葉を繰り返した。
「…何だろう…と、ずっと考えていたんだ。それはリュウの胸の前に、ずっと在ってな…」
法皇の言葉に、俺たちの視線も俺の胸辺りに集中した。
「法皇様、…何も無いよ?」
「………。」
確かに肉眼では見えやしない。
しかし俺には、
思い当たる物があった。
「…見えるんだよ、カイト。リュウの胸に、白い蝶々が留まっているのが…。」
――白い、蝶。
俺にも今は見えないその姿が、法皇には見えていた。
「……は?法皇様まで!止めてよ…!そんな…。そんな事……」
我慢比べに負けて、
泣き出したのはカイトだった。
「リュウの話した事は…到底信じられない話だったがな…、自分の病んだ瞳を信じるよ…。だから、止められやせん…。孫の様に昔から見てきた男だ。心は酷く痛むがな…」
「……じじぃ…」
「…リュウよ。色々…互いに憎まれ口ばかりだったがな…、お前と過ごすのは楽しかったんだよ…。抱き締めさせておくれ…」
その場で弱々しく両手を差し出す法皇の元に、俺は迷う事なく駆け寄った。