記憶 ―黄昏の蝶―
…ぱしゃん。
そう音をたてて水面へ入ると、
これ迄にない程に水は生暖かくて、体に貼り付く衣服に顔をしかめた。
「……じゃあ…」
「――リュウちゃんは、リュウちゃんで居てよ!俺の知ってるリュウちゃんのまま、必ず帰って来てよ!!」
それは、
俺に贈られたエール。
「…あぁ。これから何があろうとも俺は俺だ。孤児院の皆を頼むよ…。帰った時にちゃんとしてなかったら、ぶっ飛ばすからな、カイト!」
これは、
俺がカイトに向けたエール。
「……分かってるよ!真面目にやるさ!ぶっ飛ばされたくないからねっ!」
「ははっ…、どうだか!」
俺たちは、笑った。
伝えなくても、
伝わる想いがある。
俺たちは「家族」だから。
これから、俺は独りだ。
でも君たちを想う事で、
俺の心は支えられるだろう。
俺の「帰る場所」は…、
あの場所なんだと、
もう迷う事は無いだろう。
だから、行くよ。
俺は、
冷たい水の底で蝶になる。
「ありがとう」は、
戻ったら言うよ…。
だから、今は…
「――…いってきます」
小さな声で、
皆の笑顔を…思い出して…