記憶 ―黄昏の蝶―
ぴゅうと水を吐き出しながら、船着き場に上がる。
カイトは大事そうに水滴で濡れた瓶を拭いながら、俺をはやし立てた。
「いやぁ、有り難う有り難う。さすが協会の幹部!よっ、民の憧れの君!」
「…だから、うるせぇよ…」
文句を言おうにも…
「協会」の名を出されては俺が何も言えなくなってしまうのを、奴はこの長年で学習しているのだ。
「…はぁ…」
結局、濡れた…
髪にまとわりつく水分が少しでも無くなりやしないかと、ブルブルと頭を振り回す。
そんな時だった。
「…リュウ?帰ったの?」
孤児院の大きな扉が遠慮がちにギィ…と小さな音をたて、中から覗き見る一つの影。
「…ビビ?ただいま。」
俺の声を確認すると彼女は扉をくぐり抜け、俺たちの前へと姿を見せた。
黒い長めのふわふわの髪。
その大きな瞳は、何だか少し怒っている様だ…。
「…ビビちゃ~ん、何か怒ってる?俺、今日はまだ何もしてないよ?」
カイトが彼女の様子を伺いながら、ハラハラと声を潜めた。
「…うるさいのよ、カイトとリュウが揃うと…。今、何時だと思ってるわけ…」
そう顔をしかめ、孤児院の方向を指差した。