記憶 ―黄昏の蝶―
……ちょっと待て。
ここは水の底。
せっかく手にした蝶々の姿で、自由に飛び回ってやろうにも…
羽根が……
どうにも、濡れて動かない。
俺は水に流され、
上へ上へと浮上していた。
声が聞こえてきていた。
それは慣れ親しんだ声だった。
「…法皇様、水面に何か上がってきたよ…?何だろう…」
俺は、
カイトの手のひらによって、水面からすくわれた。
「…白い羽根がついた虫…。これ…図鑑で見た…蝶々?」
「――…リュウ…?姿を変えた、リュウなんじゃないか?」
「……えぇ?」
カイトが顔を寄せて、
食い入る様に俺を見ていた。
そんなに見るなよ…
何だか恥ずかしいじゃねぇか。
白い星の光に照らされて、
俺の羽根が少しずつ乾いていくのが分かった。
「……法皇様、シワシワの白い羽根が、乾いて…何だか模様が浮き上がってきたよ…」
「…模様だと?」
瞳が不自由な法皇の為に、カイトが事細かに説明をしている。
「うん…。乾いた羽根が広がって、黄色く染まり始めて…、中に黒い模様が出てきた。これ…本当にリュウちゃん…?」
「…あぁ、確かだよ…」