記憶 ―黄昏の蝶―


この夜の世界で、
前任ユピテルから、

…「永遠」を奪うこと。

それが、
俺の初仕事だった。



街の外に、彼は居た。

彼のお供である「犬竜」を連れ、恐る恐るこの街へ足を踏み入れようとしていた。

「記憶を封じた」…。
故に彼は自分が何者かを知らない。

俺には心が読めた。

彼は、この世界で自分だけが年を取らない理由を知らない。

自分だけが何故「不思議な力」を使えるのか…、
その理由を知らない。

その理由を知る為に、
彼はこの街が来るのを待っていた。


大きく息を吸い込み、
彼が片足を上げたその時…、


『――…止めとけよ。』

俺は街の内部から、
彼に届く様に声を掛けた。

その声に驚いて、彼はその場で目を凝らしていた。


七色の灯りに照らされながら、
俺は街の外に居る彼の元へと近付いた。

蝶の姿をした俺は、
彼の持つ懐中時計に反応する様に、近付くごとに「人の姿」に変わっていた。


『…お前さんは、もうこの街には入っちゃいけねぇ。もう居場所がねぇんだ…。』

…そう。
もうユピテルの居場所は無い。

あの人柱の祭壇には、
俺の「身体」が在るんだから…


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