記憶 ―黄昏の蝶―
街の真ん中に敷かれた、
彼の足元へ続く道。
「…ぁ…、貴方はこの街の住民ですか?僕を…知っているのですか?」
俺は、彼と一定の距離を取って足を止めた。
はっきりと顔を合わす事は出来なかった。
何を言うか分からない。
記憶を封じた彼を、
俺の住む世界を危機に追い詰めた彼を、俺をこんな運命にした彼を…
責め立てるかもしれない。
だから、
知らない振りをした。
『…会った事は無い。だが知っている。…一応、確認だ。お前さんの名は?』
「……ユピテル・ラディス…」
『…やっぱり、お前がユピテルか。本当に、何もかも忘れたんだな…』
彼の呼吸が速くなる。
俺は瞳を伏せ、平然を保つのに精一杯だった。
「…この街は、違う世界から来たのですね?僕は、この街に居たのですね…?」
『お前さんが知る必要は無い。俺は、お前さんから「ある物」を譲り受けに来ただけだ。』
「ある物…?何ですか?」
本当に…
こいつは忘れたんだな。
俺に会った事も、
俺の世界の皆の「記憶」を操作して逃げた事も…。
俺に、
「ごめんなさい」と謝った事も…
その謝罪の意味が、
今の俺になら理解出来る。