記憶 ―黄昏の蝶―


…ぱしゃ…

そう水面が音をたてて、
水の中から顔を出したのは、

可愛らしい女の子だった。


「……カイトにいちゃ、だれとおはなししてるの?」

首を大きく傾げながら、
陸地によじよじと上がろうとする彼女の瞳が、
空中の俺をとらえて固まった。


「…お。上がる?よしよし…」

カイトは幼い女の子に手を貸し、「よいしょ」と小さく軽い体を水面から抱き上げた。

抱き上げられようと、
彼女は俺の姿から目を離そうとしなかった。


「――…ちょーちょ!!」

抱き上げられたカイトの肩越しに、女の子はジタバタと俺の姿に手を伸ばしていた。


「…あぁ、そうね~。蝶々だよ~?可愛い、可愛い蝶々だよ~?でも二重人格で、俺を苛める悪い蝶々だよ~。」

『……おいコラ、何を吹き込むんだ。ぶっ飛ばすぞ…』

「へぇ?その可愛い姿で出来るなら?どうぞ~」


「――ちょーちょ!カイトにいちゃ、おろして!!」

何とも気が強い女の子は、なかなか下ろそうとしないカイトの首元をバシバシと叩いていた。


『…ははっ!俺の代わりに「ぶっ飛ばして」くれてるぞ?』

「……母親に似て、気が強くて困ってるよ…。何とかしてよ、リュウちゃん。」

< 228 / 238 >

この作品をシェア

pagetop