記憶 ―黄昏の蝶―
…ぱしゃ…
そう水面が音をたてて、
水の中から顔を出したのは、
可愛らしい女の子だった。
「……カイトにいちゃ、だれとおはなししてるの?」
首を大きく傾げながら、
陸地によじよじと上がろうとする彼女の瞳が、
空中の俺をとらえて固まった。
「…お。上がる?よしよし…」
カイトは幼い女の子に手を貸し、「よいしょ」と小さく軽い体を水面から抱き上げた。
抱き上げられようと、
彼女は俺の姿から目を離そうとしなかった。
「――…ちょーちょ!!」
抱き上げられたカイトの肩越しに、女の子はジタバタと俺の姿に手を伸ばしていた。
「…あぁ、そうね~。蝶々だよ~?可愛い、可愛い蝶々だよ~?でも二重人格で、俺を苛める悪い蝶々だよ~。」
『……おいコラ、何を吹き込むんだ。ぶっ飛ばすぞ…』
「へぇ?その可愛い姿で出来るなら?どうぞ~」
「――ちょーちょ!カイトにいちゃ、おろして!!」
何とも気が強い女の子は、なかなか下ろそうとしないカイトの首元をバシバシと叩いていた。
『…ははっ!俺の代わりに「ぶっ飛ばして」くれてるぞ?』
「……母親に似て、気が強くて困ってるよ…。何とかしてよ、リュウちゃん。」