記憶 ―黄昏の蝶―
気の強いビビにそっくりな…、
愛しい俺の人魚は、
それは可愛い女の子だった。
――ばしゃっ!
そう勢い良く水面が揺れ、
男の子が口からぴゅうと、肺に溜まった水を吐く。
「――アゲハ!また逃げたな!」
女の子は男の子に向けて、
「いーっ」と可愛らしく目を瞑り、カイトの首元にぎゅっとしがみ付いていた。
「…む。カイト兄ちゃんも甘やかさないでよ。アゲハに泳ぎ方を教えろって、僕に言ったのはカイト兄ちゃんじゃないか!」
「…えぇ~?怒られるの俺なの?ダメじゃん、アゲハ!」
「だって。レンにいちゃ、およぐの、はやい。アゲハ、つかれるもん。」
男の子は、レン。
俺に代わって、俺の娘に泳ぎを教えてくれていた。
何とも幸せで、
切なさに満たされる光景だ。
「みてみて、レンにいちゃ。ちょーちょ!つかまえよ?ちょーちょ!おかあさんにみせよ?」
「……蝶々?」
レンは水から上がると、
青みがかった髪をカイトから受け取った布で拭いながら、空に舞う俺を見た。
「……幸運の、蝶々だ…」