記憶 ―黄昏の蝶―
早々にカイトを自室に追い立てて、俺とビビは声を潜めながら食堂の椅子に腰掛けていた。
「…ったく…。カイトの奴、ずっと敬語で喋っててくんねぇかな…」
そうしたら静かなのにな…
ビビに渡されたタオルを頭にのせ、乾いて「通常」に戻った手でガシガシと髪を拭く。
「…そうか。敬語で静かだったから、あの時まさかカイトだとは想像もしなかったんだ…」
「なるほどね~、いつもウルサイからね。それは、アタシでも気付かなかったかも…」
ふふふ、とビビは頬杖をつきながら相槌をうつ。
今日あった事をビビに話す。
これが、家に帰った俺の日課だった。
反対に…、
俺が出掛けている間に、
孤児院で何かあったか、子供たちに変わりは無かったか、それを聞くのも毎日の日課だった。
ここで暮らす子供たちは、
今は15人。
ビビが「お母さん」だとすれば、
困った事に、
俺は彼らの「お父さん」なのだ…。
「…で、グズってたのは誰だ?もう落ち着いたのか…?」
「あぁ。また今夜も、あの子よ。今は…おじぃちゃんが相手してくれてるから…、そろそろ代わらなきゃ…」
「あぁ…じゃあ、俺が行くよ…」