記憶 ―黄昏の蝶―
「……カイト兄ちゃん、独り言?…怖いよ?」
「…えっ?あはは~?」
そうカイトは笑って誤魔化していたが、女の子の方はずっと俺を見ていた。
「…ちがうよ、レンにいちゃ。カイトにいちゃ、ちょーちょとおはなししてるのよ。」
「「『……えっ?」」』
「…ずるいの。」
女の子はそう言って、唇を尖らせて頬を膨らませていた。
「…い、嫌だ、アゲハってば。何を言ってるんだろ~。」
『……棒読み、カイト。』
俺の突っ込みは無視すれば良いものを、律儀にも俺の姿をキッと睨む。
「…いいよ、カイト兄ちゃん。誤魔化さなくて。僕、ちょっとだけ思い当たる事があるし。お母さんには心配するから言わないであげるね。」
「――…ぇ?…え!?」
焦るカイトの脇を通り、
孤児院の扉へ向かおうとするレンは、
「……ひみつ。」
と笑うと、
余計にカイトを焦らせて、
その様子を見て楽しんでいた。
『…こりゃあ「お父さん」なんて呼んで貰えるはずねぇな…』
『――リュウちゃんの馬鹿!リュウちゃんのせいで、頭がおかしいと思われちゃうじゃん!』
女の子を抱いたまま、
パクパクと口だけを動かして、
俺を恨めしそうに睨んでいた。