記憶 ―黄昏の蝶―


『…ははっ!ざまぁみろ!』

俺はカイトにそう言った。

でも多分、違うんだよ。
レンが秘密にすると言っているのはさ…?


レンは孤児院の扉の前で、
こちら側を振り返り、

大きく手を振っている。


「…レンってば、どうしたの?」

不思議そうに首を傾げながら、カイトが手を振り返していた。


「…レンにいちゃは、ちょーちょにバイバイしてるのよ?」

「…へ?」


レンの心の声が言う。


『…あの揚羽蝶は、蝶々になれたお父さんかもしれないもんね…?僕は速く泳げるようになったよ…?』

『――あぁ!見てたよ!』

レンは「あっ!」と驚くと、
白い歯を出して、

満面の笑みで、頷いた。


開いた孤児院の扉から顔を出した愛しい君が、レンの濡れた頭を撫で、こちらに向けて元気に呼び掛ける。


「…アゲハ~!カイト~!昼御飯にするわよ~?アゲハ、風邪ひくから早くおいで!」

開かれたその扉。
2人を待つ君の笑顔。


俺には、
「帰る場所」がある。

開かれたその扉を、
俺は未だ通る事が出来ないけれど…、

必ず、
いつか、帰る。


『またね、ちょーちょさん。』

幼い娘が、
俺に手を振っていた。


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