記憶 ―黄昏の蝶―


悲しい夢、怖い夢を見た子供たちが泣きながら起きてくる事は度々にある。

しかし、
毎夜の様にそれを繰り返す男の子が一人居た。

まるで昔の俺の様で、
放っておけやしなかったのだ。



廊下を通り居間へと続く扉へ手を掛けると、その扉は少しだけ開いていて…

中からは暖かな橙色の光と、子守唄の様に優しく語る老人の声が漏れ出していた。


「…そうか…、それは辛かったのぅ…。よしよし、泣くでないよ。それは「もう一人の自分」じゃからの、お前さんでは無いんじゃよ…?」

扉を覗き込めば、
じぃさんは膝の上に子供を乗せ、しゃっくりをあげる震える肩を抱いている。


その昔、その膝に乗っていたのは俺自身だった。
懐かしさに思わず目を細める。


じぃさんは孤児院の院長で、昔からこの場所で暮らしている。
俺たちの「お父さん」だった。


「…わしの見た夢はなぁ、いつも真っ暗闇じゃった。毎回光は訪れなかったし、いつも同じ場所で動けなかったんじゃよ…?だから寂しくてなぁ、いつもお前さんの様に泣いておったよ…」

「…そうなの?」

男の子の高い幼い声が、じぃさんに問い掛ける。

あぁ…
それは、いつか俺にも語られた話だ。


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